原告 意見陳述書


 平成2年5月、私は株式会社テクネット機電事業部・横浜営業所にアルバイトとして採用されました。事業部は部長以下、営業1名、製造1名、施工1名という、稼働し得る最低の人数で構成されていたので、私の仕事は多岐にわたりました。ここでは、電話番、帳簿付け等より、機械の製造、調整、施工の準備といった作業の方が多くありました。そして部長も他の社員の男性も女だからと差別をせずに色々な仕事をさせてくれました。半年の後、正社員登用制度により、私は正式に社員として迎えられました。
 たった5人の営業所でしたが、私たちはそれぞれ長所を生かしてのびのびと仕事をしていました。充実した毎日でした。私はいつまでもこの職場に勤め続けたいと思っていました
 私が体を触られることを意識しだしたのは、平成2年の秋頃からでした。はじめは私の机の後ろを通りしなに肩をたたく程度だったのが、部長と私の2人だけのときに限って肩を揉んだり、髪を撫でたり、指で梳くようになったのです。最初のうちはただのコミュニケーションの手段だと思っていましたが、回を重ねる度に触る範囲も時間も多くなってきたので、不安を感じるようになりました。でもやめて下さいと言って気まずくなるようなことになっては、と我慢していました。髪を結い上げても椅子を引いても、何の効果もありませんでした。尊敬する部長に対してそういう態度をとらなければならないことは生理的な嫌悪感にも増して苦しいことでした。それさえなければ有能で、部下の信頼も厚い普通の上司でしたので。
 年が明けて平成3年の2月、私は部長に接待のための新しい店を開拓したいからつきあってくれと誘われました。横浜営業所は人数が少ないせいかアットホームな雰囲気があり、アルバイト学生まで一緒に居酒屋へ行ったり、飲み会を開いたりしていましたので、飲みに行くことは反対しませんでした。ただ、いい店を見つけてみんなを驚かせてやりたいから2人だけで行こう、というのには少し迷いました。でも、場所も遠くはないし部長を上司として信頼していましたので、居酒屋とパブレストランに同行しました。その帰り途部長は「今日はありがとね」といいながら私の肩を抱き寄せて歩き出しました。私はふと恐怖に近い感情を覚え、たまらず部長の腕を振りほどき、鞄を部長側に持ち替えるなどして近寄ってくるのを防ぎました。放っておくとエスカレートしそうな気がしたからです。その数日後にもまた誘われましたが、アルバイト学生の男の子に一緒に行ってもらいました。はっきりと危険を感じたからです。
 2月19日は朝からテレビ局の取材が入っていました。部長が開発した住宅設備機器の撮影とインタビューです。その日も他の社員は全員,現場や営業に出かけていました。11時過ぎに取材を終えて机の前に立ったまま書類を見ていると、部長は後ろからかぶさるように抱きついてきました。これが肩揉みのエスカレートならもう注意しなければダメだなと思ったとき、部長は言いました。「一度Aさん抱きしめたかった。Aさんかわいいからさ」その言葉に私は心臓が凍るような思いがしました。部長は私をセックスの対象として見ているのだとはっきり認識しました。部長は首筋や顔に唇を押しつけ、体を撫でまわしながら顎をつかんで無理矢理キスをしてきました。私が顔をそむけたり肘を張ったりしても、その腕を払いのけたり、下腹部を押しつけて腰を動かす等して破廉恥な行為をやめませんでした。それ以上に抵抗すると部長の欲情を余計あおることにもなりかねない状況でしたし、それによって上司と部下の関係が完全に壊れてしまうような気がしたので、私は部長が離れるまでじっと耐えていました。
 午後、私は営業所を出て工場で他の社員の帰りを待ち、泣きながら事の顛末を話しました。彼らは同情はしてくれましたが、事態を解決するための何の力も持ってはいませんでした。
 その後部長は私の体への接触はしてこなくなりましたが一度確かめたものを確認するかのようにじろじろいやらしい目つきで私を眺めるようになりました。事務所で2人きりになることは以前と変わらずにあったので、私はだんだん工場で仕事をするようになりました。これではいけないと思い、3月14日テクネットの社長に全てを打ち明け、部長の処分をお願いしました。ところが社長は「男というものはばかなものでいつまでも子供のようなところがあるものだ。大目に見てくれないか。言っておく。」というだけで横浜営業所内の状況や私の受けた被害の事などまるで考えてはくれませんでした。数日後、社長から口頭で注意を受けた部長は気を悪くしたらしく、私に対して冷たくよそよそしい態度をとるようになりました。事態は更に悪化しただけでした。
 私が会社に部長の行為を報告し、改善を求めたのはいけない事だったのでしょうか。セックスの対象として体を求められ、拒んだが為に邪魔者扱いされ、それでおとなしく会社を去っていれば全てが丸くおさまっていたのでしょうか、部長には何の咎めもなく。私はそれは間違っていると思います。
 私は普通の社会人として働いていたのです。私は自分の受けた被害を不当なものであると確信して、ここに助けを求めました。
 私の受けた心の痛みを理解し、正しい判断をお願いいたします。

         平成4年10月23日

横浜地方裁判所
  第二民事部  合議係御中





     平成4年10月23日

          原告訴訟代理人     弁 護 士    高 岡   香

     意見陳述書

1 原告に対する被告らの行為は原告が述べたとおりです。原告はこの行為はセクシュアルハラスメントの典型例だと考え、本件訴訟を提起しました。セクシュアルハラスメントという言葉は一般に「性的嫌がらせ」と日本語に訳されておりますが、この日本語の訳は、その実体を的確に把握、表現しているとは思われませんので、今後もセクシュアルハラスメントと表現しますが、本件訴訟を審理するにあたり、裁判所にはセクシュアルハラスメントが次に述べる特質を持っていることを認識していただきたいと思います。

2 
@ セクシュアルハラスメントは、日本においては「セク・ハラ」と略され、揶揄的に使われる場合が多くありますが、その実体は性暴力、性差別であること。

A セクシュアルハラスメントの多くが密室で行われる陰湿な行為であり直接証拠がないこと。

B セクシュアルハラスメントの被害者は職場内における人間関係を壊したくない、職を失いたくないということから加害者に対し抵抗できないこと。

C セクシュアルハラスメントは被害者が加害者と職場で顔を合わせるため、使用者が適切な対応をしなければ、被害者は常に職場において恐怖感、嫌悪感を味わうため、しまいには退職せざるを得なくなってしまうこと。

D セクシュアルハラスメントの被害の防止、被害の救済について法律が不備であるため、被害の救済、防止にとって個別事件を判断する裁判所の役割が大きいこと。

3 最後に、セクシュアルハラスメントには声を上げられない被害者が数多くおり、その人たちも本件訴訟を注目し、期待していることを認識し、原告および数多くの見えない被害者の救済に資する判断をして下さるようお願いいたします。


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