横浜セクシュアルハラスメント裁判を支える会ニュース  bS

                  1993・9・1発行 横浜セクシュアルハラスメント裁判を支える会事務局




☆ 裁判報告

1993年7月16日 第五回口頭弁論

 今回は原告Aさんが証人となり原告側からの主尋問から始まりました。Aさんへの弁護団からの質問は、Aさんが会社に入社した当初から、加害者の部長から猥褻行為を受け、会社が何の対策も取らず、Aさんが退職に追い込まれるまでの一連のセクシュアルハラスメントの事実について細かくなされました。Aさんは、事実を淡々と落ち着いて話していきました。Aさんの口から事の顛末を聞くと、あらためて、溜め息ややりきれなさや、怒りがむくむくとおこってきました。傍聴席では、思わず声を出してしまったり、顔を見合わせて笑ったり怒ったり、すすり泣く声も聞こえました。思わず涙が出てしまったという人もいました。
 この尋問で、今まで支える会でも聞いていなかった清水建設とテクネットの関係の深さを窺える話もたくさん出てきました。「お〜!やったじゃ〜ん!」と、公判が終わった後、皆で歓声を湧かせました(ちょっと大袈裟ですが)
 主尋問が終わってから、被告の加害者本人Bの弁護士からAさんへの反対尋問の一部がありました。
 「なぜ、逃げなかったのか」の質問には、傍聴席から、「あ〜あ、またか」の溜め息。誰もが口を尖らしたり、その弁護士を睨んだりと怒りの感情を表現している気配。『主尋問であんなに丁寧に説明したのに。加害者は抵抗できないのを承知でやったんでしょうが』
 また、「部長が来てから、営業所は赤字が黒字になったのを知っていたか」の質問には、もうびっくり。『加害者の部長(自分)の業績がよくて、会社の利益が上がれば、痴漢をやっても野放しにされるのは当たり前。女性を踏みつけにしても平気の平左。加害者の男の自分には会社は強い態度に出れず何の処分もしない。会社は、Aさんを生け贄にする、ということをちゃ〜んと予想してたからあんなことしたんだ』と臆面もなく自ら白状しているような弁護士(加害者)の態度には呆れ返りました。
 傍聴人は、ざっと数えて37人。傍聴席がほぼ埋まり、一つの山をみんなで越えたような充実感がありました。
 だけど、一番しんどかったのは、もちろんAさん。お疲れさまでした。そして、Aさんの証言で、事実のひどさをわかりやすいように引き出した弁護団の皆さんにも拍手拍手。
 次回は、被告の加害者の代理人からAさんへの反対尋問の続きです。今のところ、事実に関する質問は一切していません。「このことを知っているか、なぜ、どうして」の尋問ばっかり。今度はどんなことをきいてくるか。かかってこれるものならかかって来い!
 Aさん、私たちが後ろにいるから安心して?頑張って!そして、このニュースを読んでおられるあなた、ぜひ傍聴に来て一緒にAさんを背後から応援しましょう。

  次回の公判  

   10月8日(金) 午前10時30分〜

     横浜地裁501号法廷(JR関内駅徒歩10分)



☆ 第五回公判を傍聴して

 突然の原稿依頼に驚き7月16日のあの日を思い出そうとすると、どうしても、もうひとつの「あの日」が記憶の底から蘇ってくるので、ずいぶん長い時間、原稿用紙をにらんだままでした。
 7月16日は大勢の女たちが傍聴にかけつけていました。その中で淡々とした口調で事件の日に至る事実関係を浮かび上がらせていくW弁護士の声と、それに答えるAさんの声そして、ときどき上がる女たちの静かな怒りが支配しているような法廷でした。
 そんな中で私は20年近くも昔の、当時の夫の友人から受けた強姦未遂のことを思い出していたのです。裁判が終わった時はのどの中はカラカラに渇ききっていました。
 被告側の弁護士がAさんに「どうして外に逃げ出して助けを求めなかったのか」という趣旨の質問をしていました。「この手の質問の身勝手さに、もう気がついてもいいんじゃないか男たちよ、えゝ弁護士さんよ」と私は心の中で思いました。
 殺されるかもしれない恐怖を味わわされ、やっとのことで男の手から逃れたとして、既に被害は受けてしまっているのです。助けは間に合わなかったんだ。事件は加害者によって引き起こされ、彼女は被害者になってしまっている。通りすがりの人に助けを求めることが、どのように解決につながるというのか。職場で旧知の上司が加害者であるから解決への道筋はその社会的条件の中で模索していたAさんのことを理解できないのか。
 社会生活をしているんですよ!女たちも。
 私自身の「あの日」の解決方法は最良だったのか、あの時は表現しきれなかった自分の未熟さに腹立たしい思いを持ち続けているからこそ、Aさんの発言の確かさに拍手を送りつつ、自らにちょっと刃を向けてしまうのだと思います。長い長いあの日でした。

          *          *          *

 第501号法廷はTVで見るとおりの道具立て。正面の壇上に法服の人が3人、中央の裁判長からは静かさと暖かさが感じられた。中央の証人席をはさんで左側は原告弁護団、右側に被告グループ。傍聴席は満員でほとんどが女性だった。私の左隣に若い男性がいて、清水建設名入りのレポート用紙にせっせとメモをとり続けている。それを横目で眺め、"会社に戻って逐一報告するのだろう、思いもよらず上がった火の手をなんとか叩き潰そうと男が大勢で知恵を絞るのだろうな"と思う。そして「女のくせに名誉侵害だ謝罪広告だとは生意気な、何さまだと思ってんだ、半人前のくせして、えらそうに‥‥‥」「熊本や福岡の件もあるしそんなことばかり言ってはいられない、これからどうするかだ」などと口々にいきまいたり気まずそうにモゴモゴ話したりする背広集団の絵をイメージした。
 原告本人尋問は淡々と進む。セクハラの状況が、被告B社C社Dの言動が、明確になるにつれて傍聴席に失笑が起きた。あまりに馬鹿馬鹿しく愚かしいからである。しかし"このような事実をまかり通しているのも我々なのだけど‥‥‥たくさんの差別とお金まみれの企業って一体何なのだろう"などと考えてしまった。骨まで染まった性差別、その一部としてのセクハラの実態がこうして白日の下に姿を現してきたことを体験して、実に豊かな気分になった。頭上の大岩が一刻とり除かれたような感じである。
 私はカウンセリングをしている。苦しんでいる女性たちの無意識の根っこには性差別のしくみがあり、そこからさまざまの葛藤が生まれる。男性にしてもそれは同じである。何もわからぬ幼い心に刷り込まれる性差別の数々は、無意識の部分に強固な枠ぐみを作ってしまい本人を縛る。無意識裡の差別システム程罪の深いものはない。法廷で差別の存在とその形、ありようを明確にし人々に理解してもらうことは必須である。
 多くの女性たちが自分として生きるために性的自由や働く権利が必要不可欠であることは自明の理である。保証されてもいる筈なのである。社会通念・習慣という名の厚い壁はこのような提訴によって崩されていく部分が大である。多くの人に支えられながら必ず成功させたいと願っている。                         (U)




☆ 前号でお知らせした

    「ビッグ・トゥモロー」青春出版社への抗議行動、報告
         いい加減にしてよ!セクシュアルハラスメント、強姦のすすめ

 7月30日、「支える会」も抗議文に名を連ねた「ビッグ・トゥモロー」のあきれた記事に対する話し合いが、出版社でもたれた。
 女性たちは、せまい編集部に25名と、多様な顔ぶれが集まった。出版社側は、西村編集長、次長以下「ビッグ・トゥモロー」(男性向け)「SAY」(女性向け)の編集部員がずらり20名ほど、戦々恐々とした表情で向かい合った。編集長より、公開質問状に対する回答が出された。
 指摘を受けるまで全く問題意識を持っていなかった。認識が甘かった。ポスター(オンワード)などで抗議を受けたことなどは知っていたが、記事との関連、自分たちの仕事とつながっているとは考えていなかった。〆切があり、追われていて記事の内容がチェックできなかった。が責任は編集長にあると考えている。この話し合いが、認識を改める入口だと考えている。
 編集長の対応が、落ち着いていて、妙に前向き(?)であったので、私たちとしては、ちょっと、風むきが変わってきたかなと期待を抱いた。そのはずです。この間のいきさつが毎日新聞の記者に勝手に書かれ、それによって、女性向けの「SAY」の広告が目減りしたという。編集長いわく、「社会的制裁」を受けたそうな。ときいて、やっぱり、経済効果だったんだ、と思いなおして、抗議の話し合いに進んだ。(最初は対応がひどかったと聞いている)
 私たちの主張は―――
 オンワードの広告でも明らかなように、強姦、性暴力につながる表現は、女性への暴力であるという認識が社会的にも高まっているにもかかわらずこのような紙面を作るのは問題である。社会的責任がある。
 記事は、犯罪行為である、強姦、セクシュアルハラスメントのまさに、すすめである。いやがる「彼女」をタッチでおとなしくさせ、徐々にセックスにまで追いこんでゆく―――タブーだからエキサイティングのキャッチフレーズそのままに―――セクハラの手順そのままである。たとえ、夫婦や恋人であっても合意のない性的強要は犯罪行為である。
 記事は、編集室によせられる恋人ができない、人とうまくコミュニケーションができないなどの悩み(カプセル世代という)に答えるものだというが、友人としてさえうまくコミュニケーションがとれない男たちになぜ、こういう記事が答として出てくるのか。強引に強いおとこを押しつけること、テクニックとしてのセックスのみが氾濫することがむしろ男を「ダメ」にし、脅威をあたえているのではないのか。
 セクシュアルハラスメントの相談事例を解決しているが、まさにこういう行為が行われ、被害者の女性は傷つき、職も失っている。人権問題であり労働権の侵害の問題である。もしこの職場で、上司の机の上で記事のとおりの行為が行われることを想像してみてほしい。それがよい職場といえるか。職場で対等に仕事をする仲間として女性を扱った行為であるか、考えてほしい。このような職場では女性は働けない。
 人間情報誌を標榜するにしてはあまりにもお粗末。社内のチェック体制も問題。女性の声が編集に反映されているのだろうか。「人間」の中に女性は入っていないのでは?又、カメラアングルは、男の指南書であるはずが全て女に向けられている、これはポルノの視点である。警察の防犯ビデオも同じアングルである。1度参考に見てほしい。
 性暴力は、男性中心社会によって作られた犯罪である。マスコミは犯罪を無くす為に役立つ責任があるが、現実はこのようである。女性達は、現実の暴力と、それを煽り、再生産しているメディアと両方と闘わなくてはならない。性をテーマにしたものは、特に制作側の人間性、価値観がはっきりと現れる。
 等々と、この紙面では書ききれないほど、女性たちの怒りの言葉があふれていた。
 編集側は、意図的な差別はなかったが、このような認識ではもうSEXに関する記事は止めた方がよいと、中途見解をのべた。
 女性たちの意見に「甘い認識、認識不足」と答ながら、今後の研修、勉強につなげるという形で話し合いは終わった。
 そのあと、参加した編集部員1人1人が「感想?」を述べた。認識がなかった、男の立場から記述していると思った。差別について考えたい。解ったつもりでいたが、固定観念でみていた。女性をパターン化していた。教えてほしい。アングルの事を言われて男の視点であることに気がついた。等々、抽象的でおりこうな感想ばかりだったが、まだSEX技術や方法、思いやりの問題だと認識しているような発言もあったりして、こんなヤツラが作っているのかと思うと、なんだか怒りというより、だんだん、なさけない気持ちになった。
 ただ3人の女性編集部員は、きっと複雑な気持ちで聞いていたと思われるが、ちゃんと話し合えてよかった、女性の立場からのチェックができなかったこと等の発言があった。
 私たちとしては、ちょっぴり彼女たちにはいやな思いをさせているナと思いながらも、彼女たちが中でがんばってくれるようにエールを送りたい気持ちだった。
 とりあえず、冷静?な内に第1回目の話し合いは終わり、研修会をする約束をした。
                     (すみません、三多摩の会報、参考にさせてもらいました・ビッグストーン)



☆ メッセージのコーナー

自治労横浜女性部よりお礼状が届きました

 8月に入ってなお、暑さの来ない夏に、地球の病根の深さを感じる今日この頃ですが、貴労組におかれましては人事委員会勧告や確定期の取組みに向けてご奮闘の事と存じます。
 去る7月28日開催の自治労横浜女性部第33回定期大会に際しましては、メッセージをお寄せいただき、まことにありがとうございました。今年、新しく加わったホームヘルプ教会支部や和枝福祉会支部の関連労働者の仲間と共にたくさんの職種が一堂に会し、討論を交わし、方針を確認することができました。女性たちの元気が単組の元気の元となれるよう運動していく所存です。今後ともご指導ご鞭撻のほどを宜しくお願い致します。
 貴労組、及び女性部の発展をお祈りしてお礼とさせていただきます。
                  自治労横浜市従業員労働組合
                  中央執行委員長 S
                  女性部長 T



☆ 8月19日・宇都宮裁判を傍聴して

 8月19日、宇都宮セクシュアルハラスメント裁判の第3回公判があると聞き、Aさんと共に上野からの快速ラビットに乗って宇都宮に行った。初めての宇都宮市というので2人とも「お登りさん」の気分。宇都宮地裁では、早めに着いたのにすでに傍聴券をとるために30余人が並んでいた。先着何名様かなと思ったら抽選というので驚き。私は"ハズレ"をひいて大ショックだったがAさんは"当たり"だったので安心。でも、はるばるやってきたのに傍聴できないとは口惜しいと、法廷まで押しかけてねばりこんで開始ギリギリに入れた。
 裁判はまだ準備書面の段階だが双方の主張が激突しており、今回は原告からの分厚い事実経過を含む意見陳述書が出された。埋めつくした傍聴席(プレスも含んで50余名か)にもわかりやすく説明する裁判長の対応に驚かされた。公判は30分余りで終了。
 弁護士会館で報告集会が開かれた。「すみれの会」「支える会」プレスの人30余人が参加。渡辺、中下弁護士より当日提出した書面の内容が説明された。その中で明らかになった事実は、被告会社そのものが女性社員を性的対象として扱い管理し、セクハラを温存助長する体質だということである。日本企業は多かれ少なかれ、女性差別的とはいえど、これほどあからさまな対応の中でKさんの苦斗ははかりしれないものがあったのだなあと改めて感じた。被告S、そしてその上司(支店長)は、Kさんの名誉ではなくてSの名誉のために対応した。セクハラの被害者がますますおとしこめられていくしくみが明確化されたと思う。
 あいさつに立ったKさんは「陳述書をつくりながら改めて何でこんなにがまんしたのだろうと思った。このような被害をうけたのは私だったからではなく、女だったからだ」と徹夜での書面準備で睡眠不足にもかかわらず、凛として主張。その後、討論に入り、Aさんも横浜裁判の現状をアピールした。
 実名訴訟として全国からの注目をあびているためか、毎回傍聴者が多数とのこと。次回公判は11月4日・午後1時15分から。次々回公判は12月9日・午後1時15分から。
 12月4日、1周年集会を東京で開催する予定が、福島弁護士よりアピールされた。           (Q)



☆ 女のユニオン・かながわが取り組む抗議行動へみんなで参加しましょう

 9月24日(金)

    @ 午前9時〜    イハラケミカル工業(株)本社前
                      東京都台東区池之端1―4―26

    A 午前11時〜  (株)イトーヨーカドー
                      東京都港区芝公園4―1―4

 〔事件の概要〕

 @ イハラケミカル工業嘱託解雇事件

 寮母として11年間働いてきたAさんが一方的に解雇される。
 ユニオンが団体交渉を申し入れたが、無視・拒絶去れ、神奈川地労委に提訴。係争中

 A (株)イトーヨーカドー・セクシュアルハラスメント事件

 支店の統括マネージャーBが会社の飲み会の帰り、当時19才だったAさんの1人で暮らすマンションに上がり込み、強姦。会社は、加害者Bを転勤処分にし、被害者Aさんには退職届用紙を自宅に送り、退職を強要。ユニオンと三回の団体交渉を経たが、会社は「AとBの男女の行為。セクシュアルハラスメントではないと一方的に交渉を打ち切ってきた。

◎ 是非、みんなで参加して、女の権利を踏みにじった会社に対し、抗議の声を上げましょう!!

         [問い合わせ] 女のユニオン・かながわ




☆ Aさんコーナー
 
   「のぼりつめた人」

 つい言ってしまった「サラリーマンやったことないんですか」‥‥‥フツーの弁護士なら、なくて当たり前かもしれない。
 かつて似たような言葉を私は、当時勤めていた印章店の客から言われたことがある。それは「普通の会社に勤めたことない?」というものだった。客の「しょうさ判」を作って欲しいという注文に対し、「しょうさ判」の意味がわからなかった私が聞き返したところ、その言葉が返ってきたのだ。客は普通の会社ならどこでも使っているものだと思っていたようだった。後に調べたところ、そのような呼び名は存在せず、辞書にも載っていないということがわかり、店頭販売員に対する差別的な暴言だと、店のみんなで憤慨した憶えがある。
 職安で紹介を受けたその印章店は、短大を中途で辞め、ブランク、正社員を半年、アルバイトを数ヶ所、父の望んだ"学校を出て商社のOL"や"白衣の天使"になるどころか、とんでもなく道をおっぱずれた穀潰しになって、約三年の放浪の末に落ち着いた職場だった。だからなおのこと、私の胸には「普通の会社」という言葉が響いたのだ。
 それだけにテクネットの社員としての気負いは大きかった。親会社はかの清水建設。アルバイト上がりの私に学卒並の給料は清水の給与規定によるもの。休日・休暇も清水の社内カレンダー通りだったし、展示会では清水のネームプレートをつけた。それに、全く未知の分野の仕事や機械を使っての作業や力仕事でも、みそっかすにせずやらせてくれたし、むさい男所帯のワリにはみんな紳士でものわかりが良く、優しかった。苦手なお局サマがいないのも私にとってはラッキーだった。作業服で鉄パイプをかつぎ、電気ドリルを使いこなす私に、はじめのうちは業者さんたちも驚いていたがそのうちに慣れ、鉄工所のオヤジさんや鳶さんとも仲良しになった。見た目はちょっと恐いけれどおおらかでたくましく、さっぱりとした気性で実に楽しい人達だった。私の組み立てた機械が何百万、何千万という価値を背負って出荷されていく。営業所の壁に貼られた地図に工事完了の赤いシールが増える。受注決定を知らせてきた電話に「でかした!」と吠える部長。刷り上がってきた何万部もの展示会用パンフレットは私のデザイン。さあもうすぐ五時、みんなが帰ってくる。お歳暮の大吟醸を部長は今日開ける気でいるようだ‥‥‥そんな毎日が。そんな全てが。あの事件で壊れてしまった。
 私たちにとって部長は上司であり、教官であり、恩師であり、人によっては結婚の際の仲人でもあった。「部長の頭の中にはコンピューターが入っているから」と言った人がいるほどで、私にとっては神様のようなすごい人だった。私達みんなにとってあの事件はこの世の価値観の全てが根底からひっくり返るほどの出来事だったのだ。 昨日、毎回楽しみにしている(部長も好きだった)NHKの「ロボットコンテスト」のあと「テクノパワー」という特集番組を見た。最先端の建設技術とそれによる建設物や様々な問題等を紹介する、1話完結のシリーズものだ。どうもテクネット以来建設関連モノに興味を覚えるようになってで、そのキャスターが松平さんだった。松平定知さん。この人の転落劇は何とも後味悪く記憶に残っている。そしてその姿が、何となく部長と重なるのだ。堂々とした態度に自信に満ちた口調。臨機応変の切り返しや冗談はニュースステーションの久米さんばりで、お茶の間の人気も急上昇。紅白の司会も任されて順風満帆、まさに人生の勝者といったところ。その勝利の美酒に酔いしれた時、普通では考えられないようなミスを犯した。その後の処遇は見てのとおりだ。
 平成2年の秋頃、神奈川新聞の取材で部長の家にお邪魔したときのこと。ちょうど息子さんが小学校から帰ってきたので、みんなで写真を撮ろうといったら「あらあらこんな格好で」と部長がいいと言うのにわざわざスカートに履き替えていらした物静かな奥様。帰りぎわ、「皆さんで召し上がって」とお茶菓子をそっと紙に包んで持たせてくださった。息子さんの名前を聞くと部長は「頭は多少悪くても健康ならいい」と字を説明してくれた。庭にはベスという名の犬がいた。天気は良かったけれどやたら蚊の多い午後で、蚊を追うのに熱中していた私は、応接セットでインタビューを受けていた部長に、こっち来て座ってなさい、と呼ばれてしまった。
 最近ニュースにはまったく顔を出さない松平さんだが、たまに堅い番組の司会などで見かけることはあった。本人が反省しているからか、アナウンサーとしての才をこのまま潰すのが惜しいからか、はたまたイメージ回復の方途なのか、松平さんを使うより使わない方がNHKの損失になるからか、私には知る由もない。でも現実にこうしてテレビに出ている松平さんの姿がある。蹴っとばされたお人好しのタクシーの運転手さん。裏切られた思いの全国の松平ファン。松平さんの一家眷属。当時幼稚園児だったらしい松平さんの息子さん。今、人々はブラウン管の中の彼の姿をどんな思いで見ているのだろう。
 私がテクネットに籍を置いたのはわずか1年と3ヶ月。今は事件現場の横浜営業所も移転してしまって、あのころの場所にはない。でも夏の炎天下に私が光軸調整をしたナチュライトは今日も、いろいろな場所に太陽の光を送り込んでいることだろう。私が組み立てたブラケットは今も何十台というナチュライトを支え続けているに違いない。ある国道に設置されたナチュライトのそばを通るたび、私は自分がテクネットという会社に確かに存在していたことを繰り返し思うのだ。

※ 太陽光採光装置ナチュライト‥‥‥テクネットの商品。もとはインテリジェントビル等の装飾効果のため清水建設で開発されたが、現状では日当たりの悪い住宅の日照対策設備として使われることのほうが多い。



☆ 会計報告(92'12.5〜93'8.24)

収入 224,428円

     内訳   会費     202,000円
           カンパ     12,528円
           会場費     9,900円

支出 126,062円

     内訳   郵送代     87,800円
           印刷・紙代   12,417円
           印鑑代     11,169円
           交通費      5,000円
           会場使用料   2,040円
           雑(封筒、テープ他)7,636円

残額 98,366円
 ただし、振り込み手数料の支出が今後見込まれる。



《 編集後記 》

 あなたは知っているか?!マルチノリというものを。時間が経てば、仮止め剤となる。あぁ、マルチノリ様。あなたは私の助け人。今回の編集はあなたがあってこそ。お礼の熱い口づけを…(P)

 今回はやたら文字が多い。つまらないので余白にカットを貼ってみた。P・1のタコと次回の公判の下のワニ、Aさんコーナーはじめのピッピちゃんは私のセレクトだ。もっと過激なモノはないかと探している。次号を乞う、ご期待。(A)




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