クラブA bX 
                   1994・8・26   発行 横浜セクシュアルハラスメント裁判を支える会事務局



☆ 裁判報告

1994年7月22日 第10回公判

 この日は、テクネット社長を証人として被告側代理人より主尋問、その後原告代理人より反対尋問が行われました。社長は、Aさんからの「部長のセクシュアルハラスメントを切実に訴えた」手紙を読んだこととAさんが社長に面会に行った事実について、認めました。そのなかで、ただただ円満(?)に事件を片づけようとした対応が十分明らかになりました。「重大なことがあった」とAさんからの訴えで思ったと言いながらも「詳細に何があったかはAさんから話されなかった」と答えました。が、その後原告代理人が「Aさんが社長に宛てた手紙のコピーの文章」を読み上げると、かなりのわいせつ行為があったことが十分窺える手紙だったことが明らかになりました。その中には「部長のことを耐えられない」とも述べられていました。
 「詳細に何があったのかがわからなかったならば、事実はどうであったか確かめることはしなかったのですか」という原告代理人からの鋭い質問に「しなかった。加害者の部長への懲罰も考えなかった。事を大きくしない方がよいと思った」と答えました。更に「Aさんに謝るように部長に厳重に注意はしたが、きちんと謝罪したかをAさんに確認していない。厳重注意は、就業規則上は何の処分でもない。なぜ、事実の確認をしなかったかは、Aさんのプライバシーを考えてのこと。又、「部長とAさんの間でしこりが残ると思い、事実を明らかにするのはよいことだとは思わなかった。今でも私は他にどんな方法があるのかわからない。この方法しかなかったと思う」と述べました。
 Aさんが面会に行き、喫茶店で話したとき、「男というものは子供のようなどころがあるものだ。大目に見てくれないか」と話したことは、「記憶にございません」ですと。
それにしても結果的に注意をしたこと以外は何もしなかったことが十分明らかになりました。中途半端で不適切な注意は、職場の中の力関係のあるところでは、更なるセクハラを生み、帰って逆効果になることも露呈されたように思えました。しかし、この社長根が正直なのか、セクシュアルハラスメントの会社責任が全くわかっていないのか(多分後者と窺えましたが)、原告側に有利な証言をたくさんしていただき「出てきてくれてありがとう!」という感じでした。
 清水建設の代理人の質問。「この件は清水建設に報告しましたか」「していません」と社長。テクネットを突き放す清水建設。冷や冷やものの社長。おいおい、清水建設、責任逃れするつもりでしょうが、あなたのところの社員がやったのだよ。
 しかし、この社長、「社訓」を言おうとして途中でつまり後が続かなくなってしまったり、清水建設からの出向社員の給与の出所について裁判長から質問され、不正確な返答をし、清水建設の代理人から訂正され手、「この次までに調べておきます」と言ってあわてふためいたり。やれやれご苦労さま。すべて社内のことに事なかれ主義なのね、と十分推測させてくださいました。
 意外なことに最後に裁判長から和解の勧告を予定したいと要請がありました。「どうしても応じられないということはありますか」という裁判長に、原告側も傍聴席も突然のことでびっくり。被告側テクネットの2人の代理人が顔を見合わせて苦笑していたのが印象的でした。ということで9月14日に和解の提案が裁判長室で行われます。残念ながら傍聴はできないので、同日午後6時から支える会メンバーのところで、弁護人からの報告会が行われることになりました。(詳細は、後に記載してあります)
 さて、どんな提案が出されるか。提訴した頃より、セクシュアルハラスメントに対する理解は、ずっとよくなっている、と少しは期待できるでしょうか‥‥‥。

  次回のおしらせ  9月14日午後6時より
     みずら交流コーナーにて拡大事務局会議を行います




☆ それにしてもよく言うよ

 今回はテクネットの社長が証言席について、会社側が企業の責任をどう認識しているのかが明らかになった公判でした。そして結論だけ言えば、何もわかっていない、ということになるんですが。
 2人だけの場で起こったことだから真相は藪の中、という論理で、「何も調査しなかったのですか」という原告側の質問に「どうすればよかったんでしょう?いまだに分からないんですが」と答える、無知をよそおった傲慢さ!
 加害者は事実を真っ赤になって否定したとか、にもかかわらず「言い訳はしません。申し訳なかった」と言ったので、何かはあったと思う。とかおおよそ矛盾だらけの証言でしたが、セクシュアルハラスメントの事実があったことは認識していたこと、しかし何の調査もせず、「自分の腹の内だけで」つまり具体的な再発防止や被害者の救済の措置は一切とろうともしなかったことだけが明白になったと思います。その意味では、裁判所がまともなら、原告にとって不利な証人ではなかった、と思います。それだけが救いかな?
 それにしても、よく言うよ。また、いつも思うことですが、いくら商売とはいえ、被告側の弁護士を見ていると情けなくなります。
 人権に関わる裁判では、いわば職業的に「当たり前」になっている弁護士のテクニックのようなもの(たとえば宇都宮でも、無関係な人のプライバシーあさりのような真似をやっている)も、恥ずべきこととしてきちんと指摘し、できないようにしていくことも重要な要素だと思います。       (スモールストーン)




☆ 宇都宮裁判報告

 真夏の暑い8月4日、上野から快速ラビットに乗って宇都宮まで行った。宇都宮地裁前にはすでに傍聴券のための長い列ができていた。男の人が多いのは会社側の動員らしい。すみれの会の人にあいさつしたり、顔馴染みの人と談笑していると、1時に抽選が開始された。ドキドキして竹札を引くと私は珍しく当たり(私はくじ運が悪い)、Aさんがハズレとなってしまった。
 宇都宮セクシュアルハラスメント裁判も今回で9回目、原告本人尋問が5回も続いている。被告本人が初登場ということで楽しみにしていたが、原告本人への会社側反対尋問が長引いて顔を見られず残念。前回の裁判を傍聴できなかったので様子がわからなかったのだが、会社側代理人のしつこい尋問にKさんは対決姿勢を露わにしていた。「キスの日の特定」「S被告との同行の回数」などについて何度も尋問。被告側は「キスの日」(Kさんはキスされた日と言い、被告はキスした日と言っている)を4月3日と主張。原告側は3月31日から4月3日の間と訂正することになったが、会社側はキスの事実自体は争っていない。セクシュアルハラスメントの"事実"を問う質問はなく、「なぜその事実を人に訴えなかったか」「S被告とのペア解消を支店長に申し出たとき、なぜその事実を言わなかったのか」などを追求。すぐには訴えられない構造自体がセク・ハラの土壌であり、セク・ハラそのものであるにもかかわらず「訴えなかったから大したことではなかった、合意だった」という主張をしたいらしい。
 会社側はKさんの退職を慰留させようと対応したし、むしろS被告が孤立していたのではなかったかを証明しようとやっきになっていたが、kさんはきっぱりと否定。会社側、特に支店長の対応がKさんを孤立させ退職に追いこんでいったと証言。「ペア解消も要求できたくらいだからKさんはものおじしない性格、S被告を怖がっているはずはない」という会社側主張は会社内の上下関係、男と女の力関係を無視していると思う。とにかく、1回の原告側主尋問に対し、4回もの被告側反対尋問、特に今回の会社側代理人は"やり手"という感じでいやらしい。Kさん長い間ご苦労さま。やっと解放されましたね。
 すみれの会の事務所で飲んだビールとぎょうざ(宇都宮名物)の美味しかったこと!近いうちに勝利の乾杯ができますように!     (Q)

  次回公判  10月6日 午後1時15分〜
  次々回の公判  12月1日 午後1時15分〜

次回はいよいよ被告本人の登場です。ぜひ傍聴ください。




☆ 宇都宮裁判傍聴の感想

 裁判は公正であるかどうかわからないが、抽選は公正だ。私と八王子と仙台の3原告が揃いも揃ってはずれるなんて。これがホントの"3ババ"だ。しかし「傍聴の注意」には「居眠りをしないこと」というのはないのね。寝るなら傍聴代わってくれと記者の方に言いたかった。(閉廷後、F弁護士にいちばん熱心に質問していたアンタのことだよ。あとで聞くぐらいならちゃんと起きててメモでもとれば)それにしても威風堂々とした自信満々の、他にも四文字熟語の形容がいくらでもつけられそうな被告会社代理人!憎らしいというか恐ろしいというか、私は昔の部長を連想しましたね。   (文責・A)



☆ 8月5日八王子A子さん裁判

 原告に対する主尋問と反対尋問が行われました。前回要請を行ったにもかかわらず、16人しか入れない法廷は変えてもらえず、裁判所の通用門に並んで傍聴券を受け取ってのスタート。思い起こせば、あの福岡のセクシュアルハラスメント裁判の勝訴判決のときもこうでしたね。幸先がいいと思うことにしよう。
 S弁護士から主尋問。平成3年に3度にわたるセクシュアルハラスメントを受けた後、少しずつ悪化していった校長との関係、誉めなくなったことから始まり、教育実践について頭ごなしに「反省」を求められるようになり、希望を無視した人事を「問答無用」と押しつけられていった。他の教員に対しては、寛大で希望を極力尊重する校長だったのに‥‥‥そして、酒席で聞く校長の「女なんかチョイチョイだよ」という発言に校長の女性観がうかがい知れたこと等をA子さんは証言していきました。
 続いて反対尋問。校長に対する否定的な噂について、
「それは誰が言ったのですか。その場に誰がいたのですか。あなたの体験ですか。」と追求しながら、徹底して名前を言わせる戦術。名前を言わなければ事実無根と証言を否定される恐れがあり、言えばその人に迷惑をかけることになるかもしれないという葛藤のなかで、A子さんは苦しみながら、名前を一部言わざるをえませんでした。聞いていてとても心の痛む瞬間でした。「言いたくありません」と言い切れれば楽だったか、でもその時はどう追求されたのだろうかと後で思いました。その後はほぼ予測どおりの人格攻撃、彼女の書いた学級通信の表現のまずいところを選んで取り上げ、「この表現を誇張と認めるなら、あなたの被害というのも誇張かも知れませんね。」といわんばかり。さらに「支援する会」の呼びかけ文や、ニュースも証拠として取り上げ、「どこに何枚配ったか」とまるで犯罪捜査のような追求。「あなたの行為が校長の名誉を傷つけるとは思わなかったのですか。」という質問に、怒ったA子さんが「私の名誉はどうなるんですか!」と叫んだ瞬間が私には一番気持ちよく、共感できた瞬間でした。
次回は11月11日、午後1時。被告への主尋問に入ります。傍聴をよろしくお願いします。    (働くことと性差別を考える三多摩の会・パラソル)



☆ 八王子裁判傍聴の感想
 傍聴人増殖!昨日に続いて今日も入れなかった私だ。公判終了後の集会で、会報bPに私が書いた文章が取り上げられて、ちょっと照れる、しかし、Aさんの憤懣やるかたなしといった応酬は凄かった。廊下にまで声が聞こえてきたもの。セクシュアルハラスメント裁判の被告側からの尋問として、いつもの手口がまた使われているのだなと、悲しい気持ちになった。      (文責・A)



☆ シリーズ・我が愛しの弁護団 / 第二回・高岡香弁護士

   「気付いてしまった私たち」

 約30年くらい前になるか、「インベーダー」(題名がこれであったかどうか定かではないが)というテレビ番組があった。これは、宇宙人が地球人にインベードして地球を侵略する計画に気付いた主人公が、地球人にインベードした宇宙人と闘うという番組であった。(当時の私にとっては、「ターミネーター」くらい怖かった)主人公以外の地球人は宇宙人の侵略に気付くことも無く、平穏無事に生活しており、気付いてしまった主人公だけが必死に闘うのである。主人公は地球を守ろうなどという特別な主義主張があったわけではなく、偶然宇宙人の侵略に気付いてしまい、知ってしまった以上闘わざるを得なくなってしまったのである。私はこの番組を見て以来ずっと、振り向かない、後をつけない、落ちているものは拾わない(現金は別)、隙間があっても覗かない、箱があっても中を見ない、と偶然何かを知ってしまうことはしてこなかった。弁護士になっても面倒なことは、気付かず、気付かない振りをし、気付かされそうな会合には出ず、気付いている知人に誘われないようにするなど、努力(?)の甲斐あって、このまま行けば、私は、気付いてしまった人たちが必死で闘っているのを知らずに、平穏な弁護士生活が送れるはずであった。しかし‥‥‥(この経緯は別の機会に)
 Aさんも、被害にあわなければ他の女性の被害に気付かずに、楽しくテクネットに勤めていたはずであった、きっと今でも。
 しかし、気付いてしまった以上、気付かされてしまった以上、闘わざるを得ない、闘う以上勝たねばならない、勝っても世間の人は気付かないかもしれないけれど、支える会の人たちが見ていてくれることだけでも、宇宙人の侵略から地球を守った、あの名前を忘れてしまった主人公よりも幸せだと思う。




☆ すっごく頭にきているMの近況

 10年くらい前からなのですが、私の住んでいるアパートの近くの男が、前の家の畑との境にある低い塀のところに立ってジーッとのぞき見をしているのです。
 このことに気づいたのは、たまたまその日は暑く、窓を開けていて、洗濯物を取り込もうとしていたからでした。このときは「気持ち悪いなー」で済みましたが、その後にも、ずーっと不気味に身動きもせずに立ち、何時間もこちらのアパートを凝視しているのです。暗いときばかりでなく、夕方などもいやらしい目つきで。たいていの女性は「いやらしい」目つきと、そうではない例えば「憧れている」目つきとは見分けがつくと思います。
 で、そいつが居るとわかると、最近は窓を閉めたり、干し物をして中が見えないようにしたりで気をつけてはいたのですが、階下のKさんの話では、前の畑に家が建つそうで、その家にはあの不気味な男が住むというではありませんか。しかも2階建て。私の部屋の窓の真ん前に。ゲーッとなりました。
 都会ですから、前の家のおばあちゃんが畑仕事をしている間だけの空き地であるとは思っていましたし、いつかは土地を売ったり、アパートが建つのは仕方がないと思っていましたが。
 それで私が「いやだなあ、どうしよう。」と言ったら、Kさんがやはり10年前から気がついていたし、彼女の連れ合いも知っているとの事でした。家の中のテレビが壊れKさんの連れ合いがどうしても見たいテレビを、畑の先の駐車場にある彼の車のなかで見ていたら、あの男がアパートの前で、ジーッと身動きもせず30分も立って、様子を窺っていたのを見たという事です。
 事情を警察に話しても、自分の土地に家を建てる訳だし‥‥‥と言うし。
 その夜、11時55分に、雑巾を干そうと思い、窓を開けると、あの男が暗闇に白いシャツで、ボーッと立って居るではないか。頭に来て、懐中電灯で照らしてやったらスススっと自分の家の方に歩いて行き、家の陰に隠れるんです。
 それで友人のPのところに電話したら「懐中電灯は良かった。」とか言うのですが、私はアイツが相手にされたと思って、逆効果かもしれないとも思うのです。 ああした男の心理って筑波大の小田晋先生にでも聞きたいぐらいだと思った。Kさんに言わせると、昼間にあった時には親切そうな振りをして、いつもニヤ付いた顔をしているという。アイツの連れ合いや子供も親も、気が付いていないのだろうか。「気が付いているよね。」とKさんが言っていたところ、最近わかったのですが、近所の人の中には知っている人も居ることが解りました。
 直接触られたとかではないけれど、これもやはりセクハラのひとつだと思う。
 翌日Kさんと相談してアパートの大家さんの所に行き、ぶちまけました。
 家が建った段階で、目隠しをつけるとか、ライトを付けるとかするとの事です。
 大家さんは「今まで大丈夫だったんだから。」とか「ご近所の手前もあるし、ずっと住み続けなきゃならない地元の人だから、それ以上はしないわよ。」と言うのだけれど。アイツは、当初ゴルフの真似や、木の陰に急いで隠れるとかしていたのに、今は、蚊に刺されてもおかしくない(まったく虫避けスプレーでも使っているのだろうか。)時間と場所にズーッと立っているのだ。
 Kさんは「絶対おかしいよね。でもこういう事って、なかなか他人に話せなかった。」
 3人であれこれと話していたら、ナント!アイツが話を聞こうと、こちらにやって来るではないか。普通、気になっても「ご近所の手前」そこまでするか!?
 回り道したかったけれど、堂々と歩いて行ったほうがいいと大家さんが言うので、側を通りながら「警察に友達がいる。」と大声で言ってやった。
 妹さんが夜の10時頃、川崎駅で見ず知らずの男に刃物を持って追いかけられた事があるというKさんは、以前に引っ越したいと言っていたが、「あの男は10年もキャリアがあるんだから、ちょっとやそっとじゃ辞めないよね。今度は110番するわ。今夜が楽しみね。」と言い、私は圧倒されるところもあったが、一抹の不安がよぎるのです。 (すっごく頭に来ているMより)




☆ Aさんのコーナー

   「思い違いも故意のうち」

 夏だ、サザンだ、恋の季節だ、暑いぞ!というわけで、脳ミソ狂い咲き状態のぶっとびのAがお送りする今回のタイトルは、見ての通り。テクネットの超ラブリーな社長、"ヒデちゃん"と、こちらも我が弁護団中最もプリティーな"Kちゃん"の繰り広げる笑いの応酬は、ヨコハマの特色であるちっとも緊迫感のない公判をいやがおうにも盛り上げて、全く悲壮感のない裁判という印象をさらに上塗りする結果となってしまった。これはいよいよ見逃せないと思った、まだ一度も来ていないあなた、残念なことに次回の法廷はもうないかもしれないのですよ。だから早く見に来なさいと何度もお知らせしたのに。今までしっかり見に来ていたそこのあなた。得しましたねぇ。
 有り難いことに、アタシが未婚の若い女性であったことから、私のプライバシーを守ろうと、社長なりに慮ってくだすった結果があの、隠密裡の処理だったのだそうです。決して、女子社員がひとり騒ぎ立てているだけの、取るに足らない、ちっちゃなことだなどと思ったわけではないと。だから、今でも自分のあの対応には落ち度は全くなかったと信じている、という主張でした。‥‥‥まあ、わりとウソは言っていなかったし、被告会社の立てた証人にしては、ずいぶん人のイイ印象であったし‥‥‥つまり、要するに、あれが社長や代理人を含めた被告側の総意なのだと。これだけ3年間にもわたってセクシュアルハラスメントの問題に携わってきたにもかかわらず、そのおツムの中は旧態依然として変化はしていないと。
 それほど、しかし頭の悪い人たちばかりなわけないのですけれどもねぇ、あの会社。私は実際過去に所属していて思うのだけれど。きっとね、わかっても知らんぷりしている人はいると思うのよ。きっとね。少しは。だって、そうでなければ、救われませんよ、あの人たち。
 ところで私はあの、おっとりと落ち着いて、憶えていたはずのセリフを忘れて玉子のようなまあるい上品な顔をポッテリと赤くして、でも全然悪びれる様子のない社長を。ガラス張りの社長室を社員が"金魚鉢"と呼んでいるとか、自分で言ってしまう社長を。とても可愛いと思って、閉廷後のファンの集いの席でそう発言したのですが。そうしたらみなさん笑うんですよ。「余裕ね」とか「どうしてそう思えるの(笑)」なんて。‥‥‥だって、可愛いものは可愛いのですもの。ウミイグアナとか、クワガタのメスとか、モモイロペリカンなんかを可愛いと思ってしまう私ですよ。増して、この日の私の目に映ったのは、昔、本社ビルB1のサ店の奥のいちばん隅っこの席で、おだやかに話を聞いてくれた、育ちの良さそうなおじいさん、そのままのすがたのヒデちゃんだったのですもの。これは無理のないことでしょう?




☆ Aさん関西紀行

   「4人の夜、2人の朝」

 7月29日午後11時3分、私はOと、私の家の前から出発した。富山インターハイに母校の試合を見に行きたいというOと、再び京都の地を踏みたいという私の意見が「旅は道づれ」という見解で一致した結果だ。最初の目的地は京都。そこで大阪の「セクシュアルハラスメントと斗う労働組合ぱあぷる」のメンバーと、京大矢野事件の原告・甲野乙子に会うことになっている。私たちは大型トレーラーの多い東名を避け、中央高速で西へ向かった。
 家を出るときから降っていた雨は甲府のあたりまで断続的に降り続いた。明け方5時に着いた大津S.Aで、いったん上がった雨はまた強く降り出した。雨滴のはじけるフロントウインドウいっぱいに広がる曇り空と、運転席のリクライニングで眠るOを見つめながら私は、これから始まる4日間の旅に思いを巡らせていた。
 午後5時、予定通り私はぱあぷるのPINK、ストウ、そして甲野乙子とホテルのロビーで落ち合った。こともあろうに彼女たちは、私とOの初めての旅行のその同じ宿に部屋を取り、夜っぴて語り(飲み)明かそうという計画を立てていたのだ。当直明けで一晩中車を走らせ続けたOを部屋に残し、私は彼女らと4人の宴の席へと赴いた。
 甲野乙子。京大元教授・矢野暢に数年間にわたって強姦され続けた女性。そして今、己の尊厳を取り戻すための闘いを開始した女性。‥‥‥なのであるが、これが大変に可憐な人なのだ。スラリときれいな見かけに反して、むっちゃ関西弁のキツイPINKと、ムーミンのような独特の雰囲気を持った、実は鋭いストウの、関西超一流の漫才を見るようなノリに、グリコのおまけみたいにくっついている彼女の可憐さといったらもう!何も知らない人には、イチビられとるように見えかねない。そんな個性的な面々に囲まれて、さぞかし実のある話を‥‥‥と想像されるだろうが、実は何を話したのか、あまりよく憶えていないのだ。時間の制約も無いし、お互いに旅先ということで浮かれ気分に拍車がかかり「関西人はなぜ関西弁で文章を書かないのか」とか「どういう男なら必要性を認められるか」などとまるで関係のない話ばかりをしていたように思う。そしてイイ気分になったところで「カラオケ行くで」ということになった。
 道すがら、私は甲野乙子と並んで歩いた。アルコールで上気した彼女は口数が増えていた。私の左腕に寄り添うようにしがみついた彼女のぬくもりは、その言葉と共に気持ちを、私に十分に伝えてくれた。ひとりきりではないはずの彼女の胸の奥深くに、誰にも踏み込まれることなく、密かに息づいている記憶。彼女だけが反芻する気持ち。その震えが確かに、琴線に響いた。
 1時間を過ごしたBOXを出てホテルの3人の部屋(実はツインなのだ)に帰ると、あらためて日本酒とビールの応酬が始まった。そこで、誰かが突然ウルトラマンシリーズの話をし出した。「やっぱりセブンだよね」「アンヌ隊員ははじめからダンの恋人として位置づけられていた」(ヒーローも女なしではやっていられないってか?)「ウルトラマンAの男女の合体がワイセツだなんて思ったのは大人たちだけよね」(交互に助け合い協力し合ってともに闘っていた姿は評価できると思うんだけどなあ)「大体、円谷の思想は15年早かった」「セブン人気に隠れてしまっていたが、実は帰ってきたウルトラマンだって大した出来だった」「ウルトラの父がいてウルトラの母がいてタロウがいる、そんなの生物学的に見ればあたりまえじゃないか」と、全員60年代の私たちは大いに盛り上がった。とりとめのない会話は、いつしかセクシュアルハラスメント関連の話に移っていった。
 「矢野がいまだにノーベル賞選考母胎であるスウェーデン王立科学アカデミーの会員であることは許されない。これは"辞任"ではなく"追放"されるべきだ!」‥‥‥権力にすがって生きている男は、そのよすがである権力を失うと、赤子同然の全く無力な存在になってしまうのだから、赤裸にされたその情けない姿を見てみたいという気持ちは、みんな同じのようだ。私が「部長は清水建設を退職した」と話すと彼女たちは力強い笑みを浮かべ「第一の目的は果たしたね」と口々に言った。
 既存の虎の威を借りることでしか自分の存在価値を保てない哀れな男たち。だが彼らに情状酌量の余地など無い。彼らはその持てる全ての名誉と地位を剥奪され、権力と富を奪われ、そして平穏な生活さえも許されるべきではないのだ。部長の不適なニヤケ顔を思い出すたび、私はそう思い募らせてきた。同じ人間である甲野乙子や私や、同様に虐げられてきた者たちの恨みを一身に受け、地に落ち、自分の業の深さを思い知らされながら残る人生を過ごすがいい。そのくらいの制裁は受けて然りだ。当然であったところの男社会の中で、抑圧され続けてきた「怒り」をもって立った私たちも、このやっと始まった闘いの中で傷つき、血を流し、多くのものを失うのだから。
 訴え出ることの大切さはしかし、誰でもが訴えられる状況にない今、どこまで主張されていいものなのか。白熱する議論の中で、私たちの前にそんな壁が立ち塞がった。
 「あんたキツイんとちゃうか?」「疲れたでしょう?」「自分の体は自分がいちばんようわかっとるんやから、無理せんと、キツかったら休みや」目をしょぼつかせている私にそう言ってくれたのはPINKだった。その時点で私はもう24時間以上一睡もしないでいたし、楽しい連中とはいえ初対面で、それなりに気も張っていた。「じゃあ、そろそろ」と彼女たちの部屋を辞したのは、しかしまだ宵の口の午前1時だった。
 ふたつあるベッドのひとつに腰掛けて濡れた髪をタオルで拭う私の姿を、もうひとつのベッドの上で、Oは見ていた。適度にあいづちを打ってくれるOに、私が夕刻までの出来事を話す。そのあと髪がほぼ乾くまで、2人はそのままの位置にいた。話し続ける私をOは遮りもせず、放っておけば時間はいくらでも経過した‥‥‥
 ぴったりと閉められたカーテンを開くと、思いのほか眩しく光る景色が窓の外にあった。私は床に落ちたシーツを体に巻きつけ、鏡に向かった。斜めに射してくる白い光の中で海藻のように乱れ絡まった髪をときながら、2人のことだけに集中していた気持ちを私は別の緊張に向かわせた。昨夜の3人と11時にロビーで待ち合わせて、食事をして別れようということになっているのだ。男嫌いのPINKの前にOを連れて行くことには気が引けたが、行きがかり上、仕方がない。
 食事を終えて京大構内に停めた車へ戻る途中、煎るような熱と陽射しを受けながら、気の早い萩が小さく紫色に咲いていた。
 3人をうしろに乗せた車が出町柳駅前の交差点に近づいたところで、PINKが「このへんで」と言った。また会おうと交わす握手には、それぞれの万感の思いがこもっていた。歩き出した彼女たちをOの運転する車は追い越し、交差点を曲がった。ストウの安心感のある笑顔に並んで涼しげに歩くPINK。甲野乙子の振る小さな手。小さな手。
 鴨川に面した東南アジア研究センターの門前に大きく掲げられた、矢野糾弾の立て看板をカメラに収め、私とOは京都を後にした。
 強烈なコントラストの青空と緑の山、それにシンシンと鳴く横浜にはいない蝉の声。うだる暑さ。4人で語り合った夜。2人で目を覚ました朝。凝縮された思いをこうして記録に残せる幸運に、私は感謝する。



☆ 会計報告(94.2.〜94.8.)

収入 56,500円

     内訳   会費及びカンパ

支出 138,056円

     内訳   郵送代       99,118円
           交通費        5,000円
           印刷・紙代    21,200円
           雑用品代(封筒、印鑑、振込手数料)5,738円
           団体への加入金及びカンパ      7,000円

前期繰越金 99,118円

差引残額   17,562円

◎ 会計より

HELP WE!!!!

 会計報告でおわかりのように次回のニュースがこのままですと出せなくなります。こうした事態を招いたのは、郵便料金の値上げだけに原因があるのではなく、全国のセクハラに対してたたかっている女たちと繋がろうとする私たちの気概のあらわれでもあろうかと思われます。(あいかわらずの手前味噌。御容赦のほどを。)
 すでにクラブAを無料で送付されている方は、私たちからの一方的なラブレターに飽きたらない時期が来たと、勝手に判断しておりますが、いかがでしょうか?! 西からの水不足は、横浜の我らには金不足となって襲いかかっております。(なんのこっちゃ)
 原告Aはこの事態に訳の分からぬ「セキロウ」に走ろうとしており、事態は極めて深刻です。
 同封の振込用紙にて、緊急カンパを受け付けます。
 前号の呼びかけに応えてくださった方々、大変助かりました。今号の叫びにお応えくださるは
ずの皆様。とっても愛しています。



《 編集後記 》

 1ヶ月夏休みをとって元気になりつつある"とんがらし"です。今日の仕事はこの作業だけです。(とんがらし)

 財布と定期を職場に忘れて駅まで行って戻ってたら遅れてしまった!!みんなコワイ!!でもメゲないこぐまです。(こぐま)

 8月30日PM1:30高崎地裁にて、レイプ裁判があります。被害者は非常におびえており、周囲の支えが必要です。最近、セクハラ裁判が増えて、あちらこちらに行く交通費が大変だぁ〜。(P)

 今年は暑い夏だった。かなりまいった。まいった‥‥‥だったが、ほだか養生園で養生したので生き返った感じ。やっぱり夏はぐうたらして、9月になったらがんばらなくては!9月14日の"和解"はどうなるか??(夏の暑さにめげるQ)

 ブルーだ。ブルーだ。今私はとてつもなくブルーだ。そういえば昔、渡辺マチ子という歌手が「ブルー」という歌を歌っていたっけ。うーん、ブルーだ。ブルーブルー。上野動物園のゴリラの名はブルブルだ。(ブルーなぶっとびのA)



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